演出論的【艦これ】の見方②ブラウザ編《人物造形》

艦これ】を制作している《運営》が、「このゲームはいけるっ!」と確信を得たのは、艦娘の人物造形に成功した時だと思われます。【艦これ】の魅力の99%以上が艦娘の《人物造形》にあり、むしろシュミレーションゲーム本編はおまけです。(おまけも大事!)ここに角川が表するメディアミックス戦略の骨組みを見ることができます。

また、角川のメディアミックス戦略は、地方の地域再生事業が参考にすべき成功事例として見ても価値があります。人的、経済的、観光資源的財産の欠乏の中で収益をどうやって増やすのか?を教えてくれます。

私は地域創生は、経営戦略を使いこなせるプロにしか果たせないと考えています。

地方公務員または団体と青年団の頑張りが地域を盛り上げるという考え方があります。しかし他の地域も同じ様に頑張っています。そして、そこには競争原理が働き、一般企業同様体力のなくなった地方から脱落していくと予想できます。今から5年後に迫った未来です。

危機感のある人は東京などの大都市へ逃げるでしょう。人のいない街はさらに人がいなくなります。その悪循環を食い止めるためには、次世代に負担を残すことを厭わない人間を切る覚悟と、利益追求型思考をもった人材を先頭に据える勇気が地方に問われることになります。

地方にこそ優秀な人材が必要です。経営戦略が必要です。

そして角川のメディアミックス戦略は、資源欠乏症のなかで地方がどうやって生き抜いていくかを示してくれます。

後に記述する「第二部」の方で、地方再生事業において角川戦略の有効性について述べます。

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さて、はなしを戻します。

艦これが爆発的なヒットを飛ばした影響で、二番煎じ、いわゆるパクリのゲームやフォロワーのようなゲームが次々とつくられましたが、ことごとく敗北しました。

それらは、ゲームとして劣っているわけでも、イラストがヘタだから売れなかったわけでもありません。【艦これ】の売れている要素(擬人化、女体化など)は真似することはできても、『角川のメディアミックス戦略』をコピーできなかったからです。

『角川のメディアミックス戦略』の肝となるのは、《キャラクターの人物造形》と《他作品の引用およびオマージュ》、そして《商品の多重構造》です。

艦これの人物造形を語っていく上で、この『角川のメディアミックス戦略』は重要な位置をしめます。

まずブラウザ編《人物造形》では、艦これのパクリゲームがなぜ失敗したのか、などを書いていきます。

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キャラクターが生まれるまで

艦これ】と【パクリ】では、キャラクターが生まれるまでの過程がちがいます。【パクリ】ゲームのキャラクターがこの世に誕生した経緯は、【艦これ】のキャラクターとは全く逆の手順を踏んでいます。

【パクリ】ゲームのキャラクターメイキング

艦これを成功モデルとし、擬人化された女の子ありきで、それを念頭にゲーム制作が始まったのがあまたの模倣ゲームです。

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ゲームコンセプトは『擬人化(女の子)された~』が第一義になります。女の子のイラストや音声を核にして、ゲームシステムやストーリーを被せていく手法です。これはなにより、艦これを成功事例として見ているからこそのつくりになります。

しかし艦これがヒットしている理由の表面をなぞっただけの劣化版です。ヒット要因の分析が甘いと言わざるを得ません。

艦これ】キャラクターメイキング

艦これはどうかというと、艦娘(女の子に擬人化された無機物)はメディアミックス戦略の柱ではありますが、『ゲームであること』が第一義になります。

今でこそ、漫画・アニメ・フィギュアと幅広く商品展開がされてはいますが元をたどれば、ブラウザ型戦略シュミレーションゲームです。艦これから、艦娘を引き算するとただのシュミレーションゲームになります。

ゲームカテゴリーの中ではなんのへんてつもないジャンルです。また、艦これの元はもしやアドベンチャーゲーム?という線も考えましたが、ストーリーをゲーム本編から排除しているところから、シュミレーションゲームを軸に企画を進めたと考えられます。

デジタルゲーム以前のボードゲーム(将棋やチェスを含む)の頃からある、使い古されたジャンルです。

ここから艦これに至るには二つのパターンがあります。

パターン1:「擬人化(女の子)した~」先行型

シュミレーションゲームに女の子を登場させるにはどうすればよいか?から発想を広げていった場合になります。

とにもかくにも女の子。ゲームオタクをターゲットに商品開発をしているのですから当然の流れとなります。販促要素が高いのでゲームだけでなく、アニメ・漫画などにも必ずといっていいほど萌え絵の女の子がでてきます。

新規のライトユーザーの取り込みに効果絶大ですので、これをやらない手はありません。メディアミックス戦略を展開していく上で、ライトユーザーによるコンテンツの裾野の押し広げなくしては、ヒットを飛ばすのは大変困難です。

比較対象として、一部の男くさい一人称視点ガンアクションや、欧米の戦争ものゲームを例にあげると、コアユーザーに高い評価を受ける半面、商品展開づらくコンテンツを伸ばしきれません。ライトユーザーにとって取っ付きにくいと感じるところがビジュアル面に出ています。

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『売れること』だけを考えれば、萌え絵のかわいい女の子を出さない手はないのです。

シュミレーションゲームに、女の子を出演させると決まった次の段階は、その女の子をどこで使うかになります。また、コンテンツの利益を何によってあげるのか?が明確に見えてきます。

古典的ジャンルのシュミレーションゲームからイメージを伸ばして『戦略』シュミレーション、戦争もの、旧日本海軍の戦記ものという発想をするのは、ある意味たやすいことです。(旧日本海軍を選ばないとヒットしなかったと思いますが)

では、「女の子はどこに配置すればいい?」この問題はとても重要な意味をもちます。プレイヤーの操作対象か、攻略対象かの違いです。味方(自機)か敵かです。

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例《味方:東方プロジェクト 敵:ときめきメモリアル

秋葉系、オタクはリアルな恋愛は得意ではありません。超ーヘタです。女性に振られることに、ほとんど耐性がありません。拒絶され傷つくことを極端に避けています。

でも、せめて二次元の中では恋愛をしてみたい。というのが、女の子が敵で登場し攻略していくゲームです。征服願望を満たすゲーム設定がされており、18禁アダルトゲームによくみられるタイプです。

しかし、この手の女の子を敵とし攻略するゲームでは、女の子に振られることもあります。オタクは女性を神聖視する傾向があり処女が好きです。悪い所を含めた女性の人間性を受け入れられず、きれいなままでいてほしい願望をこじらせてしまうと、バーチャルな恋愛ですらできなくなってしまいます。

そこでハーレムゲームが登場します。

例であげた、東方プロジェクトや艦これの属します。バーチャル恋愛よりさらにオタクのメンタルに優しい『女の子は最初から自分のことが好き』というゲームです。絶対に女の子は自分を裏切らない設定で、昨今のライトノベルやアニメに多く見られます。

艦これは恋愛ゲームではありませんが、『女の子は最初から味方』=絶対の安心感を与えてくれる存在として、プレイヤーの操作できるキャラクターにつくられたと思います。艦これに限らず秋葉系コンテンツはこの流れになっています。

『戦略シュミレーション』、『旧日本海軍』、『女の子は自陣』を掛け合わせてゲームをつくるわけですが、船を擬人化する発想が、やはり飛びぬけて優秀なアイデアです。

なぜなら『船の擬人化』という発想をした時点で、創作物に必要な《人物造形》をパスできるからです。

角川のメディアミックス戦略の一つに『引用』があります。過去の出来事、人物、物語などをトレース(オマージュ)することによってコンテンツの情報量を激増させることができます。

艦娘には、それぞれのキャラクターの元になった船があります。何処で建造され、戦い、沈んでいったかのエピソードを下敷きにして、艦これのキャラクター(艦娘)は容姿や性格が形作ってあります。

例:島風


【艦これ】私が生まれて来た意味 - ねこあし@グレイプニル

艦これはこの元になった船の歴史を『引用』することによって、本来、ストーリーの中でしか見せることのできない、キャラクターの《人物造形》をやってのけています。

また、ご存知の通り日本は敗戦しました。太平洋戦争で活躍した船も大半が海の底です。史実での悲惨な結末と艦娘を照らし合わせると、イメージのフィードバックが起こり艦娘には『はかなさ』という記号が乗っかります。

『はかなさ』と『女の子』から導かれるのは、オタクの好きな『処女性』です。

旧日本海軍の船をキャラクターに引用することによって、《人物造形》と世界観に付随するストーリーの構成をブン投げることに成功しています。

そしてコンテンツの利益は、艦娘の人物造形がしっかりとしているので、汎用性のあるキャラクター商法で稼ぐことが可能になります。

艦これから艦娘を引くとただのシュミレーションゲームといったのは、コンテンツの価値の大半が艦娘であり、利益を生んでいるのはキャラクターの人物造形であるからです。

 

パターン2:「旧日本海軍のシュミレーションゲーム」先行型

パターン1とは重複するところも多いのですが、ゲームを戦略シュミレーションとして創りましょう、と先に企画があった場合を考えます。

シュミレーションゲームをつくるとしたら、ネックになるのが《ストーリー》と《キャラクター》です。ユーザーがゲームの世界に没頭するにはこの二つが魅力的であることが必須です。

キャラクターの《人物造形》が重要なのはパターン1で述べたとおりですが、ゲームづくりの出発点がジャンル・シュミレーションであった場合、同時にストーリーも考えねばなりません。

ゲームに限らず、漫画やアニメでもそうなんですが、『キャラクターの魅力はストーリーの中でしか見せられない』という原則があります。(角川メディアミックス戦略では引用によってパスできます)

ユーザーがストーリーを追うことで、登場するキャラクターに厚みができ、感情を突き動かされるというしくみです。

例:ファイナルファンタジ―・タクティクス

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物語の進行状況(時間軸)に起伏をつけ、人物を掘り下げるのが演出家の仕事です。この時間軸と言うのがやっかいで、ユーザーを物語に引き込むまでに時間がかかり過ぎると、途中で匙をなげられてしまいます。

キャラクターの魅力が十全に伝わる前にゲームが終わってしまいます。(艦これのパクリゲームはこれにあてはまる。)

そこで、旧日本海軍です。

戦略シュミレーションで旧日本海軍といえば、大部分のストーリー説明を史実で端折ることができます。南へ東へ伸びていった戦線がストーリーを補完してくれます。歴史の『引用』を使った説明の短縮です。(ストーリー構成は次項の記事でします)

そして船の擬人化を女の子にするという経緯があって、艦これはできたというのがパターン2です。

人物造形において、旧日本海軍の戦略シュミレーションゲームであることが艦これを大ヒットに導いた理由だと推察されます。

 

商品の多重構造性

角川メディアミックス戦略における『引用』についての補足になります。

艦これ】が好きなオタクの方は、女の子のイラストが可愛い、声優は誰それといったことを重要視されるようですが、演出論的にはあまり評価の意味をもちません。イラストと声は『引用』における派生だからです。

引用は【起源と派生】の系譜です。(元ネタとネタ)

例えば、最初に目にした艦娘のイラストがそのキャラクターのアイデンティティーになります(派生/ネタ)。もし、別のイラストを最初に見ていたら、そのイラストがそのキャラクターになっていたでしょう。小鳥の刷り込みと一緒です。

そして元ネタになった擬人化される前の船(起源)に関する史実や歴史を重ねることで、艦娘の性格や艤装に意味がつきます。『起源』であるこの部分がしっかりしているため、艦これは人物造形をパスできます。

前項のキャラクターメイキングで、起源に対して派生で作品を創ることは【パクリ】だと書きましたが、決して悪いことではありません。人のつくれるものは、ほとんどが起源と派生による『引用』だからです。先人の遺産の上に商品は成り立っており、艦これの人物造形は最初に船の史実があって、その後にイラストと声があります。そのイラストにも~風なタッチ・色遣いなど、さらに過去の引用からつくられています。

入れ子の中に、入れ子がある構造です。(メタ構造)

起源から派生1が生まれ、派生1から派生2が生まれます。

例:島風

起源:日本海軍駆逐艦島風

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↓派生1:【艦これ】しまかぜ

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↓派生2:二次創作しまかぜ(プロ・アマによる同人)

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派生1:【艦これ】しまかぜ

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↓派生2:島風フィギュア

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これら全てが「しまかぜ」というキャラクターの一部です。引用に引用を重ね合わせていくことによって、多角的にキャラが引き立ってきます。

人物に魅力があることが商品価値を加速させ、商品の販路を押し広げることが可能になるのが角川の『引用』術です。

 

二部 角川のメディアミックス戦略と地方再生

角川メディアミックス戦略『引用』を地方再生事業に応用するため必要になるものを書いていきます。

まず、地方がなぜ廃れていっているかと、アベノミクス政策の柱「地方再生」の本質は何かの私見を述べたいとおもいます。

地方の荒廃は人が都市部へ流れて行って戻ってこないことが原因です。当たり前のことですが、「その当たり前のことを考え方のゼロ地点に置き、そこから思考を開始する」のはベストな方法だと思います。単に「地方より都市部の方が魅力があるから人は出ていく」と思考をスタートさせてしまうと、「乏しい地方の魅力にどうやって下駄をはかせよう」など卑屈な意見が出るので、私はそういったものの考え方を好みません。

地方出身者が都市部へ行ったきり地元に戻ってこないのは、仕事や生活基盤がそこにあるからというのもありますが、もっと詰めた言い方をすると『地方には人がいないから』の一言につきます。

人口が少なければ経済規模も比例して小さく、先細りの未来しかありません。もちろん雇用できる人の数には限りがあり、大きく所得格差がでます。そんなところに進んで戻ろうとするのは少数派です。

地方自治体の打ち出す「U/Iターン事業」には、『因果の逆転』の問題があります。

都市部に集中した人に、地元に帰ってきてほしい・新しく住み着いてほしいとして、移住者に何らかの援助を提案する自治体が見られます。自然溢れるまち、温かい人間関係、伝統…を売りにして人を呼び込み定住を願っています。

東京から移住してきた人の話を聞くと、「お金じゃ買えないものがあった」とか「日本人が忘れた文化が残っている」とおっしゃられます。(実際に聞きました)

でも、ですよ。「お金じゃ買えないもの」は同時に「金銭的価値のないもの」なんですよ。地方民が都市部へ脱出していく理由は、お金がほしくてもその手段があまり多くはないからなのに、移住者が望むスローフードな価値観のギャップに戸惑います。

首都圏から移住した人はそこが気に入ったから定住したのでしょう。でもその子供が同じ様に考えるでしょうか?幸せを求めてい移住したのに、その子供(子孫)は経済的理由で幸せにはなれない因果の逆転が起こりえます。

 地方を出ていく人間と、入ってくる人間の割合が同じならこう言ったプライスレスの価値を売りにできると思います。が、圧倒的に田舎に入ってくる人間は少ない。よって『田舎であること』を売りにしたら絶対にその地域の人口は縮小してしまうのです。

地方自治体が田舎文化を全面に押し出して定住者の勧誘をするのはいずれ人口が減ってしまう未来が見える、とんちんかんな話なのです。

しかも、元から住んでいる人間の負担を軽くするため、定期的に納税してくれる人間の確保を第一義にしているようなものが見え隠れします。老人を背負う若者を探しているようにしか見えません。

アベノミクス政策で地方再生が望まれているのは、こういった先細りの地方自治体を救おうと思っての性善説的な支援ではないように思えます。

これまでは都市部の人口を多数の地方が支える、一極集中型都市によって日本国は発展してきました。しかし今は出生率の低下で子供の数は減っていく一方です。都市部が確保できていた就労人口も比例して下がっていくと思います。このままでいくと都市部はやせ細ってしまいます。

そして地方が壊滅すると都市部も連動して倒れてしまうでしょう。

アベノミクス政策『地方再生』の本質は、この共倒れを避けるため地方人口を増やす政策だと考えられます。自身で書いておいていうのもなんですが、田舎に住む人間にとって「都市部のために」とは肌触りのよい感じはしません。

これが現状把握です。地方に希望はないのかっ。ありますっ。

政府が資金をばらまいてくれます。

しかし、村おこしだからといってモニュメント等をつくり、結局何も残らなかった忌まわしい過去を繰り返してはなりません。

むしろ失敗した経験を後の世代にきちんと伝えることが大事です。恥だと言って伝えなければ同じ過ちを犯してしまいます。失敗にも価値はあります。

そういった過去の遺産や活動の記録を取り、地域再生事業のデータベースをつくることが、傾いている地方を生き返らせるの最初の一歩だと思います。

情報の蓄積はただそれだけで価値を持ちます。今、貴方が見ているインターネットがそれを証明してくれています。

そして発信することです。『人は目に見えるものしか見えない』。一般演出論からピックアップした言葉ですが、情報は時間経過であやふやになりがちなので、記録保存をして残しておくとそれは将来、後継者の共有財産になります。きっと役に立ちます。

地域の歴史・文化・伝統もアーカイブしておけば、自分たちの次にバトンを渡せる可能性が生まれます。

 データベースとは前項でいう『起源』に相当するもので、次の世代が『引用』するための言わば「たたき台」になります。

角川メディアミックス戦略の成功のカギは引用でした。 

情報を持つことが最初にすべき課題であり、最も大事な資産になります。

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以上、演出論的【艦これ】の見方②ブラウザ編《人物造形》でしたっ。